数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。
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『海峡に立つ 泥と血の我が半生』 許 永中 著・小学館
昭和の終盤から平成の前半、アクセルを目いっぱいに踏み込み、フルスロットルで駆け抜けた在日韓国人実業家がいた。「闇社会の帝王」「バブルの怪人」といった枕言葉を伴って語られることも多い。その人物とは許永中氏。自らの半生を初めてつづった。
1980年代後半から1990年代、日本を狂乱させたバブル経済が生成し、やがて崩壊した。著者はバブルを象徴する2つの大型経済事件で逮捕された。一つは絵画取引やゴルフ場開発などに絡み巨額資金が闇社会に流れたとされるイトマン事件(1991年)、もう一つは多額の手形詐取と政界汚職が発覚した石橋産業事件(2000年)。自ら関わった事件の核心が明かされる。
これだけではない。大阪・梅田駅前再開発に関連した東急建設事件、テレビ局の経営権をめぐるKBS京都(京都放送)事件…。数多くの経済事件で著者が登場するが、政財界から、在日同胞、暴力団、被差別団体、右翼まで張り巡らされたその人脈には驚かされる。

本書にはアンダーグラウンドの人々を含め、数多くの実名が出てくる。例えば、政治家では竹下登元首相、渡辺美智雄元副総理、亀井静香元金融担当相ら、経済人では昭和電工の鈴木治雄元社長、西武百貨店の山崎光雄元社長ら。韓国の金泳三元大統領とは意外な関係があった。
昭和の妖怪といわれた大谷貴義氏、政界最後のフィクサーとされる福本邦雄氏との知己を得て、政財界へのパイプを広げた。そして、著者が生涯の恩人というのは元東邦生命保険社長の太田清蔵氏。それぞれの人物とどのようなつながりがあったのかは本書を読んでのお楽しみだ。
著者は戦後の大阪で在日韓国人2世として生まれた。大阪工業大学在学中から不動産や建設などの事業にかかわり、実業で身を立てる決意をする。「ワル」のイメージがついて回りがちだが、自身の使命として任じるのが日韓の架け橋になること。その闘志は今も衰えていない。
2012年に母国での服役を希望し、その後出所して現在はソウル市内で暮らす。本書の執筆は3年に及んだという。在日韓国人が置かれていた境遇や日本社会で彼らが果たしてきた役割など、日韓の戦後史を読み解くうえでも貴重な一冊といえる。
文:M&A Online編集部
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