後継者候補となる個人が投資家の支援を受けて会社を引き継ぎ、承継後は自ら経営を担う「サーチファンド」。その仕組みを活用して事業承継を果たした企業がある。京都市中央卸売市場で75年の歴史を持つ丸北北尾商店だ。株式会社YMFGキャピタルは、こうしたサーチファンドを運営し、経営者候補の発掘から企業探索、承継実行、承継後の経営支援までを手がける。特徴は、譲受企業を先に決めるのではなく、まず経営者候補を選び、その人物に資金と支援を投じて承継先を探す点にある。2019年に日本初の銀行系サーチファンド投資事業を立ち上げ、地方銀行ネットワーク、資金支援、承継後の伴走を組み合わせることで、M&Aを「成約」ではなく「承継後の成長」まで含めて設計している点に特色がある。(文中敬称略)
―まずサーチファンド戦略について、初めて聞く人にもわかるように教えて頂けますか。
藤本:サーチファンドは、経営者を目指す個人、いわゆるサーチャーが投資家の支援を受け、既存企業の事業承継を行う仕組みです。承継後はサーチャー自身が経営者となり、ファンドや金融機関、元オーナーの協力を得ながら会社の持続的成長を目指します。

一般的なM&Aでは、まず譲受企業が対象会社を見つけ、その後に経営体制を整えることが多いです。一方、サーチファンドは順番が逆です。「どの会社を承継するのか」より先に、「誰が承継するのか」を明確にする。ここに大きな意味があります。親族内にも社内にも後継者がいない、事業会社への譲渡には抵抗がある、そして後継者を自分の目で見極めたい。そうした経営者にとって、サーチファンドは新しい事業承継の選択肢になります。
―サーチファンドをM&A戦略として見ると、どこに強みがありますか。
藤本:一番の強みは、譲渡企業のオーナーが後継者の人柄や資質を直接見極められることです。事業会社へのM&Aでは、理念や企業文化、従業員の雇用や待遇が変わることへの不安を抱かれることがあります。サーチファンドは「この人に託したい」と納得したうえで承継を進めやすい。ここが、譲渡企業にとって大きな安心材料になります。
さらに、私たちは2019年から日本で初めてサーチファンドへの投資事業に取り組んできました。現在は総額約65億円の2ファンドを運営しており、地域の中小企業と経営者候補をつなぐ土台が以前より格段に厚くなっています。
―YMFGキャピタルの仕組みは、どのような流れで進むのでしょうか。
光永:流れはとても明確です。まず説明会やイベント、ホームページ、SNSなどで情報に触れていただき、次にカジュアル面談に進みます。その後、選考を経て、いきなり正式なサーチャーになるのではなく、「プレサーチャー」という段階を設けています。ここで企業探索活動に関わっていただき、三次面談や投資委員会を経て、正式サーチャーとして活動を始めます。そこからSPC設立、デューデリジェンス、条件交渉を行い、事業承継へ進みます。

このプレサーチャーの工程が、実はとても重要です。面接だけでは、人の本質は見えません。現場でどう振る舞うか、相手の話をどう受け止めるか、立場の違う方々とどう関係を築くか。そうした積み重ねを見ながら、譲渡企業との相性を丁寧に確かめます。M&Aは条件面だけで決まるように見えて、最後は人と人です。そこを省かないことが、結果として承継後の安定につながります。
―地方銀行グループがサーチファンドを担う意義はどこにありますか。
藤本:情報、資金、伴走、この三つをそろえやすい点です。私たちが運営する「地域未来共創Searchファンド」には、多くの地域金融機関が出資しており、全国各地の取引先企業とサーチャーをつなぐことができます。企業探索の場面では銀行から情報提供を受けられますし、承継交渉も取引銀行の紹介からスムーズに始めやすい。承継後も、経営支援に加えて成長資金やMBO資金などのファイナンス支援まで行えます。
つまり、成約までの仕組みだけではありません。承継後に会社をどう伸ばすかまで含めて設計していることが、私たちのM&A戦略の特徴です。
―ここからは、本件で譲渡企業となった丸北北尾商店のお話を伺います。事業承継を考えた背景は何でしたか。
北尾:前社長である夫が体調を崩し、会社経営が難しくなったことが直接のきっかけです。息子も事業を継がない意向でしたので、具体的に事業承継の話を進めることになりました。私は経理が中心で、現場経験はありません。夫の不在時に現場へ出たこともありましたが、勝手が分からず本当に大変でした。会社の存続と従業員の雇用を守るため、事業承継を決断しました。

―譲渡企業として、承継先に求めたことは何だったのでしょうか。
北尾:一番大切だったのは、3代にわたり築いてきた会社のDNAを残してほしいということです。地域に密着し、お客さまとの信頼関係を大切にしてきた文化を守りながら、新しい力で会社を成長させてくれる方に託したいと考えていました。市場の中でも第三者承継は珍しかったので、従業員が受け入れてくれるかという不安もありました。

―上撫社長は、なぜ未経験の青果仲卸の世界に入ろうと考えたのですか。
上撫:私はNTT西日本で約15年間、ITやデジタルの仕事をしてきました。けれど、この仕事には、生産者と消費者をつなぐ社会インフラとしての手触りがあります。人と人とのつながりが濃く、毎日の食を支える責任がある。その世界で、歴史ある会社の未来に貢献できることに大きな魅力を感じ、承継を決めました。

北尾:初めてお会いした時は、とにかく若くてエネルギッシュな方だと感じました。お会いするたびに誠実なお人柄が伝わってきて、この方なら任せられるという気持ちが強くなりました。
―YMFGキャピタルは、上撫社長をどのように評価していたのでしょうか。
藤本:上撫さんは、能力だけでなく、人柄とコミュニケーション力が際立っていました。市場のように人間関係が非常に重要な世界では、現場に溶け込み、信頼を築けるかが決定的です。その点で、とても強い適性を感じていました。
光永:加えて、誠実さと行動力です。業界未経験でありながら、投資前から研究を重ね、入社前にはフォークリフトの免許まで取得されました。「自分が現場で汗をかく」という覚悟が明確でした。譲渡企業のお二人が「この方なら経営を任せられる」と判断されたことも、大きな後押しになりました。
―承継後は、どのように支援しているのですか。
光永:承継後の100日プランでは、私も週に3日ほど現地に入り、上撫さんと一緒に動いています。金融機関とのやり取り、社内のコミュニケーション、日々の経営課題の整理など、やるべきことは多いです。新しく就任した経営者は孤独になりがちですが、壁打ち相手がいるだけでも景色が変わります。

藤本:私たちが現場に入る意味は、譲受企業側の支援だけではありません。従業員の皆さまが新社長に直接は言いづらいことを、第三者である私たちに話してくださる場合があります。そうした小さな違和感を早く捉え、摩擦が大きくなる前に整える。これも承継後を見据えた支援の一つです。
―最後に、これから事業承継を考える経営者の方へメッセージをお願いします。
藤本:事業承継は、会社を手放す話ではなく、次の成長につなぐ話でもあります。後継者不在に悩む企業にとって、サーチファンドは「顔が見える承継」を実現できる選択肢です。誰に託すかを自分の目で確かめ、承継後の支援まで受けながら次世代へつないでいける。この仕組みを、もっと多くの方に知っていただきたいです。
上撫:事業承継は、会社の第二創業だと感じています。守るべきDNAを大切に受け継ぎながら、新しい力で会社を進化させていく。その可能性はとても大きいです。私自身、丸北北尾商店を「日本一の仲卸」にするという目標を掲げています。その挑戦を通じて、承継の価値を示していきたいです。
本案件はストライク<6196>が支援した。
PeopleXは、2024年11月、外国籍IT人材の採用を支援するアクティブ・コネクターの全株式を取得し、子会社化した。M&Aに至るまでの経緯について両社の代表に聞いた。