累計発行部数100万部のベストセラー小説『ホテルローヤル』(桜木紫乃・著)が映画化され、2020年11月13日に公開された。北海道・釧路湿原のラブホテルを舞台に、ホテルの盛衰と経営者一家や従業員、訪れた客たちの悲喜こもごもの人生を描く。
メガホンをとったのは『百円の恋』や『嘘八百』、昨年のNetflix国内視聴ランキング1位を獲得した『全裸監督』など精力的に活動を続ける武正晴監督。脚本は、連続テレビ小説「エール」を手がけた清水友佳子。
桜木自身を投影した、ラブホテル経営者の一人娘・雅代を演じるのは波瑠。共演には松山ケンイチ、安田顕、余貴美子、原扶貴子、夏川結衣、伊藤沙莉、岡山天音ら実力派俳優陣が名を連ねる。
北海道、釧路湿原を見下ろす丘の上に建つラブホテル「ホテルローヤル」。雅代(波瑠)は美大受験に失敗し、家業であるホテルを手伝うことになった。アダルトグッズ会社の営業の宮川(松山ケンイチ)への恋心を秘めつつ、黙々と仕事をこなしていく。甲斐性のない父、大吉(安田顕)に代わり、半ば諦めるように継いだホテルには、子育てと親の介護に追われる夫婦、行き場を失った女子高生と妻に裏切られた高校教師など様々な人が非日常を求めて訪れる。
ある日、ホテルの一室で事件が起こり、マスコミが取材で押し寄せてきた。さらに大吉が病に倒れ、雅代はホテルと、そして「自分の人生」に初めて向き合っていく。
原作の同名小説は2013年に第149回直木三十五賞(直木賞)を受賞し、累計発行部数100万部を超える桜木紫乃の代表作。オムニバスの連作で、1つのラブホテルを軸に繋がっている。

小説では廃墟で荒れ果てた風景から物語が始まり、廃業、ホテルの建設、開業へ・・・と時間を遡っていくのだが、映画は廃墟化したホテルから舞台は一気に過去へ。主人公・雅代の目を通してホテルの変化を描いて繋ぐ。
雅代がラブホテルを継いだのは成り行きだった。美大に落ち、若い男と出奔した母に代わってラブホテルを切り盛りするようになる。映画はここまでをテンポよく描いていく。ラブホテル営業の裏側をちょっとコミカルに見せて笑いを誘う。原作者の実体験が活かされているのだろう。従業員の家族の話も盛り込み、さまざまな夫婦のあり方も示す。

ところが、ある事件をきっかけに客足が鈍り、しかも父親が倒れてしまう。廃業を決断した雅代が入院中の父親に伝えるシーンがこの作品のクライマックス。廃業は雅代にとって親を捨てるのと同義だった。
継ぐのは成り行きでできても、廃業するのは覚悟がいるのだ。客室に置いてある大人のおもちゃを回収に来た宮川のセリフから、雅代が後始末の手を抜かず、対応していたのがわかる。物語の終盤に両親が「ホテルローヤル」を始めた経緯と雅代の人生を交差させることで、ラブホテルに関わってきた人々の重層的な人間ドラマが浮かび上がる。
“雅代=原作者“として書かれた脚本で、高校生から30代までの雅代を演じた波瑠は桜木紫乃のトレードマークであるメガネがよく似合うこともキャスティングの決め手の1つだったという。
前半は受けの芝居が中心。受験の失敗や母親の出奔にさえ、感情を露わにしない。繊細さの中に意志の強さを感じさせる。次第に周りの人がいなくなり、雅代の気持ちがフォーカスされていき、最後にホテルの名前の由来に気づいたときに、ふっと感情を出す。原作にはない部分だが、雅代の心の機微をうまく表現している。

雅代の父親を演じた安田顕は桜木紫乃たっての希望だった。入院シーンでは特殊メイクを施し、老いや衰弱を強調。波瑠と共鳴し合い、それぞれが心の葛藤をにじませる。娘からホテルとともに捨てられる孤独が伝わってきた。出番は少ないが、強い印象を残す。
観る者の心に切なさと温かな余韻をもたらす作品に仕上げられ、幅広い世代に共感されるだろう。
文:堀木三紀(映画ライター)
<作品データ>
『ホテルローヤル』
監督:武正晴
原作:桜木紫乃『ホテルローヤル』(集英社文庫刊)
脚本:清水友佳子
出演:波瑠、松山ケンイチ、余貴美子、原扶貴子、伊藤沙莉、岡山天音、正名僕蔵、内田慈、冨手麻妙、丞威、稲葉友、斎藤歩、友近、 夏川結衣、安田顕
配給:ファントム・フィルム
© 2020映画「ホテルローヤル」製作委員会
2020年11⽉13⽇(⾦)TOHOシネマズ ⽇⽐⾕ほか全国ロードショー
公式サイト:https://www.phantom-film.com/hotelroyal

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