ハイブリッド型総合書店「honto(ホント)」で好評の「ブックツリー」は、本の専門家たちが私たちの“関心・興味”や“読んでなりたい気分”などに沿って、独自の切り口で自由におすすめの本を紹介する企画です。
そんな数あるブックツリーの中から、ビジネスパーソン向けのものを編集部が厳選! 教養や自己啓発、ビジネスの実践に役立つものをピックアップしてお届けします。
ブックキュレーター:真山仁
世の中は不条理に満ちている。だからこそ、その不条理に立ち向かう勇気が求められるのです。不条理に挑む、不可能を克服する熱量と情熱――。それは、エンターテインメント小説の醍醐味の一つでもあります。諦めるな!戦い続けよ。そして、その壁を乗り越えるのだ。

凄腕でありながら、なぜか疎まれてしまう。そんな男はどこにでもいるものです。それがスパイの世界になれば、命がけになります。冴えない風体の英国情報部員チャーリー・マフィンは、あろうことか自らが所属している組織から「廃棄処分」に近い扱いを受け、命を落としかけます。それを持ち前の機転ですり抜けたチャーリーは、自らが生き残るために一か八かの賭に出ます。

アルジェリアの独立を阻む仏大統領ドゴールを暗殺せよ!と過激派が雇ったのは、正体不明の敏腕暗殺者「ジャッカル」。その日から、ジャッカルと彼を逮捕しようと必死の捜査を続けるルベル警視の死闘が始まります。ミッション成功のために徹底した準備をし、人を利用し、時に殺害までするジャッカルの非情さの背後に、人情も大義もありません。しかし、彼の行動こそが国際政治の不条理を突き破ると読者は信じ、徐々に暗殺者を応援したくなるから不思議です。

映画『裏切りのサーカス』で知られるスパイ小説の巨匠 ジョン・ル・カレ。冷戦後、彼が新たな敵と見据えたのは、グローバリゼーションでした。国境を越えて世界が繋がるのは良いことのように多くの人は錯覚しています。しかし、これによって地球規模で富は、一握りの多国籍企業と富豪たちに握られてしまうのが実情なのです。その闇をえぐり、愛する者の死の謎を解きたい一念で突き進む主人公の葛藤は、多くの人の胸をつきます。そして、その先に、冷戦時代のソ連よりも手強く怖い巨大な敵が浮かび上がってきます。

日本探偵小説の最高峰である『獄門島』は、実は社会派ミステリだったのを知っていますか?とにかく凄いトリックの連発で、冒頭からラストまで、読者は圧倒されるのですが、作品の底流に流れているのは、日本が抱える独特の価値観という掟の存在。その掟を突きつけられた者がどんなリアクションをするのか。本書の凄みを下支えしているのは、そういう不条理を前にした人たちの苦悩と葛藤だったのです。

日本社会は、不条理に満ちている。それをどうやり過ごして生きていくかが、日本人の智恵なのです。でも、いくら知恵を絞っても逃れられない不条理や束縛が存在するのが現実。そんな時、人は犯罪に走ります。短編の魔術師である連城氏が、その威力を遺憾なく発揮した悲しみに満ちた物語の数々に、あなたは涙するはずです。
ブックキュレーター:真山仁

小説家。高校時代に小説家を志し、新聞記者、フリーライターを経て、2004年『ハゲタカ』でデビュー。2007年に『ハゲタカ』『ハゲタカⅡ』を原作とするNHK土曜ドラマが放映され話題になる。地熱発電をテーマにした『マグマ』は2012年にWOWOWでドラマ化された。「ハゲタカ」シリーズのほか、地検特捜部と宇宙開発を舞台にした『売国』、日本の食と農業に斬り込んだ『黙示』、日本最強の当選請負人が主人公、選挙の裏側にスポットを当てた『当確師』、被災地の小学校を舞台にした連作短編集『そして、星の輝く夜がくる』『海は見えるか』などがある。海外ミステリをこよなく愛し、マニアの編集者との読書会を定期的に開くほど。
※本記事はhonto「ブックツリー」より転載
30年にわたって企業価値算定にかかわってきた著者は「バリュエーションは簡単な公式に美しく収斂する。それさえ理解すれば経営者や実務家として十分」と主張する。
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